前人未到の壁に挑んだ31歳・西山朋佳女流四冠のニュースに寄せて
将棋界から届いた「西山朋佳女流四冠が女性初のプロ棋士(四段)になる」というニュースに、
胸を熱くされた将棋ファンの方も多いのではないでしょうか。

31歳。彼女のここまでの歩みを振り返ると、
まさに「レジリエンス(跳ね返す力・回復力)」をフル活用したような人生です。
しかし、彼女の姿を観察していると、単に「歯を食いしばって耐え忍んでいる」のとは少し違う印象を受けます。
むしろ、失敗や挫折すらも最初から織り込み済みであり、次の「登攀(とうはん)ルート」を探すプロセスそのものを楽しんでいるようにすら見えるのは私だけでしょうか。
人生のキャリアにおいて、壁にぶつかったり、予期せぬ方向転換を余儀なくされたりすることは誰にでもあります。特に30代・40代は、仕事や家庭でさまざまな逆境や逆風に直面しやすい時期です。
今回は、西山朋佳女流四冠の生き様をヒントに、ポジティブ心理学の概念である「心理的資本(HERO)」のリーダーに「レジリエンス(R)」を据えることで、いかに人生を楽しく、力強く切り拓いていけるかを紐解いていきます。
【第1章】失敗も織り込み済み? 西山朋佳の歩みに見る「折れない強さ」の正体
西山朋佳女流四冠のキャリアは、決して平坦な一本道ではありませんでした。
2015年に20歳5か月でプロ棋士の養成機関である「奨励会」で最高峰の三段まで昇段し、2020年には女性初のプロ棋士(4段)誕生まであと一歩というところまで迫りながらも厳しい勝負の世界の壁に阻まれ、結局は「25歳まで」という年齢制限のルールの前に「奨励会退会」という大きな「挫折」を経験しています。
普通であれば、長年追い続けた夢の舞台から降りることは、人生の敗北と感じられても無理はありません。
しかし、彼女はそこで止まりませんでした。2021年から女流棋界へと戦場を移すと圧倒的な実力を発揮し、女王・女流王座などのタイトルを軒並みに獲得。そして2024年には再び「棋士編入試験受験」という形で、かつて届かなかった頂へ向けて新たなルートで挑みました。しかしここでも5人の4段棋士の前に2勝3敗となりあと一歩届きませんでした。
そして今回「女流最高位タイトル『白玲』を通算5期獲得した女流棋士は棋士編入の権利を得られる」という新しい制度によってついに10年越しの夢の頂にたどり着いたのです。
彼女の凄みは、「一度ルートが途絶えても、山頂(自分の目指す生き方)へ繋がる別の登山道を探し出せること」にあります。
「レジリエンス」とは、単に「プレッシャーに耐え続ける頑丈さ」ではありません。
「うまくいかないこともある」という前提(失敗の織り込み)を受け入れた上で、
柔軟に姿勢を立て直し、別のアプローチを楽しむ「しなやかさ」こそが、彼女の折れない強さの正体なのではないでしょうか。

【第2章】「心理的資本=HERO」の司令塔を「R(Resilience)」に置き換えてみる
ここで、個人の内面的な心のエネルギーである「心理的資本」の観点から、彼女のメンタル構造を分析してみましょう。
「心理的資本」は、以下の4つの要素の頭文字をとって「HERO」と呼ばれます。
- H(Hope):希望 — 目標に向かう意志と、そこに至る複数の経路を描く力
- E(Efficacy):自己効力感 — 「自分ならできる」という自信と根拠
- R(Resilience):レジリエンス — 逆境や挫折から跳ね返す回復力
- O(Optimism):楽観性 — 事態を前向きにとらえ、明日はよくなると信じる力
通常のキャリア開発や目標達成では、「H(希望)」や「E(自信)」が先行し、壁にぶつかった時に後から「R(レジリエンス)」「O(楽観力)」で補填するケースが多く見られます。
しかし、逆境が待ち受ける不確実性の高い時代において人生を面白く切り拓く人は、
「R(レジリエンス)」をチームのリーダー(司令塔)に据えているのではないでしょうか。
「R主導型HERO」が起こす強力なシナジー
- 「R(レジリエンス)」がメンタルの司令塔になる
- 「このルートはダメだったか。よし、一度引き返して姿勢を整えよう」と、挫折を迅速に受け入れる。
- 「E(自己効力感」)を呼び起こす
- 「一度ダメでも、自分には別のアプローチを見つける対応力がある」と確信する。
- 「O(楽観性)」を引き出す
- 「想定通りの一直線じゃないけれど、この回り道やルート探し自体が面白いじゃないか」と楽しむ。
- 「H(希望)」を再構築する
- 途切れたはずの道の先に、全く新しい「登攀ルート(編入試験や新たな目標)」を描き出す。
「R」をリーダーにすると、失敗は「終わり」ではなく「新しいルート探索の始まり」に変わります。
だからこそ、彼女の挑戦は見る者を惹きつけ、本人もまた前を向いて進み続けられるのでしょう。
【第3章】「もうダメだ」の先で見つけた、私自身の「レジリエンス」と「R主導型」の生き方
実は私自身、広告会社に入社して10年目、30代前半のときにプランナーとしての限界を感じ、営業部門へ異動するという大きな挫折を経験しています。全く畑違いのフィールドで、バブルからバブル崩壊へと激動する時代にももまれ、幾度となく『もうダメだ』と頭を抱えたことはいまでも忘れられません。

しかし、何をやってもうまくいかない現状と失意の中でも『じゃあ、次はどのルートで登ろうか?』と切り替えることができる自分のメンタルの柔軟性に気づいたのです。いま思うとそれが『レジリエンス』でした。
2019年に『メンタルが弱い人ほど人生が楽しくなる』という電子書籍を書いた原点もここにあります。

西山朋佳女流四冠が「奨励会退会」「棋士編入試験失敗」という大きな壁を越えて新たな挑戦を楽しんでいる姿は、
まさに『R(レジリエンス)』をリーダーに据えて人生を前進させる「心理的資本マネジメント」の極意そのものです。
さらに「棋士編入の権利行使」を表明したことで「反対意見」や「疑問」が沸き起こっているのも事実です。
・男性は1ルートしかないのになぜ女性だけ棋士へのルートが3つあるのか?
・女流棋士の実力は担保されているのか?
これからはこうした「逆風」にも立ち向かって行く新たな「レジリエンス」が求められるかもしれません。
【第4章】30代・40代から始める「レジリエンス主導型」で人生を楽しむ3つの実践法
西山女流四冠の姿や、私自身のこれまでの歩みから言えるのは、『30代・40代からでも、「レジリエンス」をリーダーに据えれば人生は何度でも面白くなる』ということです。
キャリアの停滞や逆境を感じている方が、今日から試せる3つの実践法をご紹介します。
「挫折や予定変更」を最初からプロジェクトの予算に入れておく
あらかじめ「一筋縄ではいかないのが当たり前」「想定外のトラブルも織り込み済み」という前提を持っておきます。失敗を特別視せず「計画通りのリスクが発生しただけ」と捉えることで、無駄な落ち込みを防ぐことができます。
「別の登攀ルート」を探すプロセスそのものを面白がる
最初に描いたAプランが破綻した時、「終わった」と絶望するのではなく、「さて、BプランやCプランという宝探しを始めようか」と思考を切り替えます。ルート探しの試行錯誤自体を楽しむマインド(O:楽観性)が、心の余裕を生み出します。
「戦略的撤退」を誇りに思う
一度選んだ道から引き返すことや、異動・転職などで方向転換することは「逃げ」や「敗北」ではありません。山頂(自分が大切にしたい生き方)に到達するための「戦略的再スタート」です。小さく引き返す勇気を持つことが、結果として遠くまで進む力(E:自己効力感)になります。
【まとめ】人生という山の登り方は一つじゃない
31歳でさらなる高みへ挑む西山朋佳女流四冠が見せてくれているのは、単なる将棋の強さだけではありません。
『どんな挫折や逆風があろうとも、自分の中の「レジリエンス」を信じて新しいルートを楽しそうに登っていく人間の美しさ』です。
人生という山において、一本道の登頂ルートに固執する必要はありません。

30代・40代で今、壁に直面している方、道が見えなくなっている方へ。
ぜひ今日から「レジリエンス(R)」を自分のメンタルのリーダーに据えてみてください。
「よし、次はどの面白そうなルートで登ろうか?」 そう思えた瞬間から、あなたの人生は再び、楽しくドライブし始めるはずです。
