「老年的超越」は高齢者の「心理的資本®」:人生を深める新たな視点

高齢者ing

「心理的資本開発士 PsyCap Master」のホリシンです。

今回はまさにいま私自身が実感している「老年的超越」と「心理的資本®」の関係についてです。

高齢者だけが持つ不思議な「心の力」がある

高齢化が進む現代社会において、
高齢者の生きがいや幸福感をどのように支えるべきかが
高齢者本人だけでなく地域や家族の課題になっています。

そして私自身が「前期高齢者」から「後期高齢者」に向かってさ迷っている最中に出合ったのが
「老年的超越」(Gerotranscendence)という高齢者特有の心理的概念でした。
まさに目からうろこが落ちたのをはっきりと覚えています。

スウェーデンの社会学者ラース・トルンスタム(Lars Tornstam)によって
1989年に提唱されたこの概念は、
老年期における精神的成長や心理的変化を肯定的に捉えるものであり、
「高齢者の心理的資本®」という文脈で特に重要な示唆を与えてくれます。

ここでは「老年的超越」と「高齢者の心理的資本®」の関係性について探りながら、
老年期における成長の可能性やそれを支える具体的なアプローチについて考えてみます。
また私の体験から「老年的超越」が家族との関係性にも影響を与えているという考察も紹介します。

笑顔の高齢者

「老年的超越」とは?

「老年的超越」とは、
老年期に達した人々が経験する心理的・精神的な変化を説明する概念です。

トルンスタムは、老化を単なる「衰退」として捉えるのではなく、
人生の後半において「新たな視点や深い意味を獲得する可能性がある変化」と提唱しました。

具体的には、以下のような変化が特徴とされています:

  1. 自己中心性の減少
    他者や自然、宇宙といった「自分以外のもの」とのつながりを
    より深く感じるようになり、自分中心の考え方から離れる。
  2. 視点の拡大
    人生をより哲学的・包括的に捉え、小さな問題に囚われにくくなる。
  3. 死生観の変化
    死に対する恐怖が減り、死を人生の一部として受け入れるようになる。
  4. 物質主義から精神性への移行
    物質的な欲求が薄れ、精神的・内面的な価値を重視するようになる。
  5. 孤独の肯定的受容
    孤独を否定的に捉えるのではなく、内省や自己探求の時間として価値を見出す。

私もいくつか思い当たることがありました。
これらの変化は、老年期における心理的成長の一形態であり、
高齢者が新たな幸福感や生きがいを見出す基盤となります。

料理をする高齢者

「高齢者の心理的資本®」とは?

「心理的資本®」とは、近年心理学や経営学の分野で注目されている概念で、
Efficacy(効力感と自信)」
Optimism(現実的な楽観性)」
Hope(希望、目標)」
Resilience(乗り越える力)」
といったポジティブな行動力をもたらす心理特性を指します。

これらは、ストレスや困難に直面した際に適応する力となり、
幸福感や満足感を高める要因として機能します。

自分らしいキャリア形成を目指すビジネスマンにとっては、
「人的資本」「社会関係資本」を支える「第3の資本」としての重要なリソースであり、
組織にとっては成果を上げる社員の特性として「人材マネジメント」の指標にも使われています。

そして高齢者においても、「心理的資本®」は重要な役割を果たします。
特に以下の点で、その必要性が高いとされています。

  1. 喪失体験への適応
    年齢を重ねる中で、身体的な衰えや友人・家族の死といった喪失を経験することが増えます。「心理的資本®」が高いと、これらの経験に対して適応力を発揮しやすくなります。
  2. 社会的役割の変化
    定年退職や家族構成の変化により、社会的役割が変化する中で、
    新たな役割や価値を見出すための力になります。
  3. 精神的な豊かさの維持
    高齢期においては、フィジカルな活動の制限が増える一方で、
    精神的な豊かさが幸福感の中心となることが多くなります。
    「心理的資本®」はこれを支える重要な要素です。

「老年的超越」と「心理的資本®」の関係

「老年的超越」と「心理的資本®」は、
どちらも高齢者の幸福感や生きがいに深く関係しています。

「老年的超越」は加齢がもたらす精神的な変化のプロセスを説明する概念であり、
「心理的資本®」はそれを支える具体的な「心の力」と考えることができます。

たとえば、「老年的超越」における「視点の拡大」や「物質主義から精神性への移行」は、
「心理的資本®」の「Optimism(現実的な楽観性)」や
「Hope(希望、目標)」を高める土壌となります。

また、死生観の変化や孤独の肯定的受容は、
「心理的資本®」の「Resilience(乗り越える力)」を強化するきっかけになります。

さらに、「老年的超越」を体現する人々は、
自己中心性の減少や他者とのつながりの深まりを通じて、
より充実した人間関係を築くことが可能になります。
これによりまた「心理的資本®」の向上が促進される好循環が生まれ、
より高い幸福感を得られるのではないでしょうか。

高齢者夫婦

「老年的超越」を支えるための具体的アプローチ

私の経験からも「老年的超越」を促し
高齢者の「心理的資本®」を高めるためには、以下のようなアプローチが有効と考えられます。

内省の時間を大切にする環境づくり

「老年的超越」によって、内省や自己探求を深める機会が増えます。
そのため、日々の忙しさから離れ自分自身と向き合える時間を確保できるよう、
周囲が静かな環境や趣味活動を支援することが重要です。

対話を通じた価値観の共有

高齢者が持つ経験や知恵を他者と共有する機会を増やすことで、
自己の存在価値を再確認しやすくなります。
また若い時には避けていた哲学的な話題や死生観についての対話も、
「老年的超越」を深める契機となります。

精神性を育む活動の促進

瞑想(マインドフルネス)、宗教的活動、自然や宇宙との触れ合いといった
精神的な豊かさを育む活動を支援することで「老年的超越」のプロセスを実感できます。

「心理的資本®」のトレーニング

「心理的資本」のリソースである「Hope」や「Optimism」、
「Resilience」を高める心理トレーニングを取り入れることで
「老年的超越」を支える土台を強化できます。

たとえば、ポジティブ心理学の手法を活用した
グループセッションやワークショップなどが効果的です。

自分の「老年的超越」を感じたとき

高齢者になるにつれ、ふと自分がいままでと違う思考や行動をとっている
と感じる場面が増えてきます。

「老年的超越」を知らなければ単なる「老化現象」と捉えてしまいますが、
「老年的超越」を理解していれば、
その変化がその後の人生にポジティブな影響を与えるのではないでしょうか。

日々の生活に現れる「老年的超越」

私が「老年的超越」を実感したエピソードを紹介します。

ある日のことです。妻と元旦の家族の集まりについて話していました。
昨年は、近くに住む娘夫婦のマンションに、もう一人の娘の家族も集まり、
孫3人を含む9人で楽しいひとときを過ごしました。
持ち寄りの料理や鮨の出前を囲み、ゲームをしたり、
家族みんなで笑い合う時間は特別なものでした。

にぎやかな食卓

帰りには娘の旦那が車で家まで送ってくれるなど、家族の温かさを感じる元旦でした。

しかし、今年は状況が少し異なりました。
上の娘一家が2日から旦那の実家に行く予定があると聞き、私は娘の負担を減らすため、
「今年は近くのジョナサンでいいんじゃないか?」と妻に提案しました。

その言葉を聞いた瞬間、妻は驚き、涙を浮かべながらこう言いました。

「元旦の家族の集まりをファミレスでやるなんて信じられない。
私はそんな人と40年も一緒にいたのか。」

私は妻の反応に戸惑いました。
私には「ジョナサン」の何が悪いのかが理解できなかったのです。
むしろ、娘たちにとって準備の負担が少なくなると思って前向きに提案したつもりでした。
それが、妻にとっては「家族の絆を軽視した」と映ったのかもしれません。

振り返ってみると、
この出来事は私自身が「老年的超越」のプロセスを歩んでいることを示していたのです。

「老年的超越」では、物事をより簡素に、包括的に捉えようとする変化が起こります。
たとえば、私は元旦の集まりについて、
「家族がどこで集まるか」よりも「家族が集まることそのもの」に価値を見出していました。
場所が自宅でも、マンションでも、ジョナサンでも、
家族が一緒に過ごせる時間があればそれで良い、と考えたのです。

ファミレス店内

これこそ「老年的超越」の一つの特徴である
「視点の拡大」や「物質主義から精神性への移行」に該当すると言えるでしょう。

一方で、妻はこの提案に強い違和感を覚えたようです。
それは、「元旦」という特別な日が持つ伝統や家族の絆を
重視する価値観から来ているのかもしれません。
妻にとっては、自宅や娘夫婦の家で手作りの料理を囲むことこそが、
家族のつながりを象徴する重要な時間だったのでしょう。
この価値観の違いが、私たち夫婦の間に一時的なすれ違いを生んだのだと思います。

家族のつながりを支えるために

このエピソードから得られる教訓は、「老年的超越」の視点を活かしつつ、
家族や周囲とのつながりを維持するためには、柔軟性と対話が不可欠であるということです。

視点の共有

「老年的超越」の結果として得られる新たな視点は、
家族にとっても刺激的で有益なものとなり得ます。
私の提案も、妻や娘たちともっと丁寧に共有していれば、
異なる価値観を互いに理解し合えるきっかけになったかもしれません。

共通の価値観を見つける

家族全員が納得できる形で「特別な時間」を共有することは、
「心理的資本®」を高める鍵となります。
たとえば、持ち寄りの料理や外食といった折衷案も検討できたかもしれません。

柔軟性を持つ

「老年的超越」では、
「どのように過ごすか」よりも「誰と過ごすか」に重きを置く視点が強まります。
この視点は、柔軟な家族の在り方を模索するためのヒントになります。

家族団らん

まとめ:老年期を「成熟の時」として捉える

「老年的超越」は、高齢期を「衰退の時期」としてではなく、
「成熟の時期」として捉える新たな視点を提供してくれます。
そして、この精神的成長を支える「心理的資本」の存在が、
高齢者の幸福感を高める鍵となります。

そしていつか「老年的超越」そのものが「高齢者の心理的資本®」として働くようになるでしょう。

トルンスタムは2005年に
「老年的超越:ポジティブ・エイジングの発達理論」という本を出しましたが
残念ながら日本では出版されていません。

日本では、東京都健康長寿医療センター研究所の准主任研究員である増井幸恵さんの
この本が大変参考になります。
まさに私のおそらくは5年後の未来が書かれていました。
娘たちに「こうなるのは老人の自然なる心の発達なので優しく見守って欲しい」
と渡しておこうと思います。

話が長くなるお年寄り

社会全体がこの視点を共有し、高齢者の心理的成長を支援することで、
誰もが充実した老年期を迎えられる社会を実現することができるはずです。

老年期の豊かさは、
個人だけでなく社会全体の成熟度を測るバロメーターでもあるはずです。
「ザ・高齢者」の実感です。

(ホリシン)

脳は老いても、心は老いない:「心理的資本®」で築くウェルビーイングな人生
「高齢者には高齢者のウェルビーイングがある。」定年退職後の人生は、誰にとっても一つの大きな節目です。かつての私は、63歳で退職を迎えた時、自分の役割を終えたような感覚を抱え、これからの人生に漠然とした不安を感じていました。しかし、退職してから10年が経った今、思索の時間が増え、読書を深め、かつてよりも心が豊かであることを実感しています。もちろん、脳の衰えは否定できません。記憶力は低下し、注意力が散漫になることも増えました。それでも、私は「脳は老いても、心は老いない」という信条を持っています。そして、この信条の下、心理的資本(PsyCap)を活用することで、自分自身の人生をより前向きに、充実したものに変えています。今回は、この考え方を科学的なエビデンスと共にご紹介し、60代、70代の皆さんに人生を豊かにするヒントをお伝えしたいと思います。

「心理的資本」の基本はこちら↓

「心理的資本®」を始めよう!内なる「HERO」に出合うとき
「心理学」と「経営学」の融合から生まれた「心理的資本」を知ろう!最近「心理的資本」(Psychology Capital)という言葉をよく耳にするようになりました。略して「PsyCap」(サイキャップ)とも言われます。「Hope」「Efficacy」「Resilience」「Optimism」の4つのリソースが「心理的資本」の中身です。それぞれの頭文字をとって「HERO」と呼ばれます。「心理的資本」は「心理」という言葉が使われていますが、特に経営学や組織論の分野で見かけることが増えました。「人材マネジメント」や「キャリア形成」に欠かせない概念として注目されています。

 

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