何歳であろうが成長をあきらめない人生を歩むために
葛飾北斎は日本を代表する浮世絵師であり、その作品は世界中で高い評価を受けています。
しかし、彼自身が最も自らの成長を感じたのは、70歳を過ぎてからだったと言います。
自分が70歳までに描いたものは取るに足らない。73歳でようやくものの骨格を悟り得た。だから80歳になればもっと上達するはずだ。
この言葉には、何歳になっても自らの限界を超え続けようとする、師の「心理的資本」と言える「希望」と「目標」と「自信」が込められているように感じます。
師の言葉や生き方は、現代の私たち、特に高齢者が人生の後半をどう生きるかを考えるうえで、大きなヒントを与えてくれます。
「富嶽百景」の富士山に己の理想を重ねたように、高齢者は「心理的資本」を活用して、老年期にも充実した人生を送ることができるのです。
「心理的資本」と「老年的超越」を考える
「心理的資本」とは、アメリカのネブラスカ大学のフレッド・ルーサンス教授が提唱した概念で、「Hope(希望、目標)」、「Efficacy(効力感と自信)」、「Resilience(乗り越える力)、「Optimism(現実的な楽観性)」の4つの要素(リソース)から構成されています。
4つのリソースの頭文字をとって「HERO」と呼ばれます。
近年は経営学の分野で注目され、ビジネスマンのキャリア形成に必要な「個人的資本」として、また企業にとっては「人材マネジメント」の指標として使われています。
そしてこの「心理的資本」は、高齢者が豊かな老年期を送るうえでも重要な役割を果たします。
さらに高齢者には、「心理的資本」に加え「老年的超越」という特有の成長過程があります。
これは加齢とともに物質的価値や社会的な役割から解放され、より精神的、存在的な次元に焦点を当てる心理的変化を指します。
「老年的超越」には、以下のような特性が見られます。
- 自己中心性から他者への共感や奉仕へのシフト
- 日常的な出来事への深い感謝
- 自然や宇宙への一体感
これらは、高齢者が「心理的資本」の「Hope」や「Efficacy」の低下を補完し、「Resilience」や「Optimism」を維持するための大きな力となります。
私の信条:「脳は老いても、心は老いない」
私自身、70歳を超え「老年的超越」の域に入りつつあると感じています。
広告会社で35年、IT会社で6年間のキャリアを経て、現在は「レジリエンス」と「心理的資本」の専門家として活動しています。
その人生の終盤で会得したのが、「脳は老いても、心は老いない」という自信です。
脳の機能は確かに年齢とともに衰えるかもしれません。
しかし、心は新しい希望を持ち、他者とのつながりを育むことで、いつまでも成長し続けることができます。
葛飾北斎師が80歳を目前にしてもなお成長を信じたように、私たちもまた、自分の心に新しい目標や夢を描き続けることができるのです。
「心理的資本」を活用したウェルビーイングの実現
高齢者が「心理的資本」を活用してウェルビーイングな人生を送るためには、次のようなアプローチが有効です。
「Hope(希望、目標)」を育む
「Hope」は未来へのビジョンを描く力です。
たとえば、趣味やボランティア活動、新しい学びなど、自分が楽しみながら続けられる目標を設定することが大切です。
葛飾北斎師が「80歳になればもっと上達する」と信じたように、小さな希望を積み重ねていくことで人生に新しい景色が生まれてきます。
「Efficacy(効力感と自信)」を高める
「Efficacy」とは「自分にはできる」という感覚です。
高齢になると新しいことに挑戦する機会が減ることがありますが、日常生活の中で小さな成功体験を積むことが重要です。
たとえば、家庭菜園を始める、スマートフォンの使い方を学ぶといった小さな挑戦が「Efficacy」を高めます。
「Resilience(乗り越える力)」を鍛える
「Resilience」は困難に直面したときに粘り強く立ち直る力です。
高齢者にとっては、健康の問題や社会的孤立といった避けられないリスクがあります。
こうしたネガティブな状況を乗り越えるためには、友人や家族との交流を大切にし、感謝の気持ちを持つことが効果的です。
「Optimism(現実的な楽観性)」を持つ
「Optimism」は、未来に対して肯定的な見方をする力です。
老年期においても、自分の可能性を信じ、ポジティブな視点を持つことが大切です。
たとえば、葛飾北斎師が晩年に至るまで絵を描き続けたように、常に新しい挑戦を見つけることで「Optimism」を維持できます。
「心のエンジン」を磨き続ける
フレッド・ルーサンス教授が提唱する「心理的資本」には「HERO」に加え、「クリエイティビティ」「スピリチュアリティ」「マインドフルネス」といったリソースも「心理的資本」になり得る候補として含まれています。
高齢者にとっては、こうした自分なりの新しいリソースを取り入れることで、自分独自の「My心理的資本」を築くことができます。
たとえば、絵を描く、詩を書く、瞑想を取り入れるといった活動を通じて、「ウェルビーイング」を目指す「心のエンジン」を磨き続けることが可能です。
これにより、「Hope」や「Efficacy」がやや弱くなったとしても、それを補完する力を持つことができます。
まとめ:葛飾北斎を目標に、自分自身を超越する
葛飾北斎がその生涯をかけて実践したように、私たちもまた、年齢に関係なく成長し続けることができます。
「脳は老いても、心は老いない」という信条を胸に、高齢者が「心理的資本」を活用して「希望」や「目標」を持ち続けることは、ウェルビーイングな人生の実現に欠かせません。
老年期は「成長の末期」ではなく、新しい自分を発見し続ける「サステナブルな成長」の過程なのです。
(ホリシン)
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