「HERO」だけで本当に人は動きだせるのだろうか
「心理的資本」は、次の4要素で構成されています。
ポジティブな行動を起こすエンジンと言われます。
- Hope:希望(目標)
- Efficacy:自己効力感
- Resilience:レジリエンス
- Optimism:楽観性

しかし、現実の世界で人間は「希望を持とう」「自信を持とう」と考えただけで、前へ進めるわけではありません。
でも例えば、自分のためなら諦めてしまう人が、家族のためなら踏ん張れることがあります。
失敗して落ち込んでいても、誰かのジョークやユーモアで硬い気持ちがほどけることがあります。
「助けてもらった」という感謝が、新しい挑戦への一歩を生むこともあります。

ではこうして「HERO」を動かしているかもしれない、その背後の力とは何なのでしょうか。
このコラムではそれを「隠れ心理的資本」と呼びます。
(最近のトレンドドラマ「VIVANT」風に言うなら「心理的資本の別班」?)
「隠れ心理的資本」とは何か
「HERO」の外側にも、人を強くする心のリソースがある
フレッド・ルーサンス教授らは、「HERO」以外にも「心理的資本」へ発展する可能性のある要素として、次のようなリソースを挙げています。(「こころの資本」(Psychological Capital and Beyond)より)
- クリエイティビティ
- フロー
- マインドフルネス
- 感謝と赦し
- エモーショナル・インテリジェンス
- スピリチュアリティ
- オーセンティシティ
- 勇気
ここから分かるのは、「心理的資本」が「HERO」だけで完結する閉じた理論ではないということです。
そこで今回はこうした「HERO」に影響を与えそうな様々な心のリソースを「隠れ心理的資本」としてその役割を検証してみたいと思います。今回は特に「家族愛(誰かのため)」「ユーモア」「感謝」をピックアップしました。
ただし、ここで一つ区別しておきたいことがあります。「家族愛(誰かのため)」「ユーモア」「感謝」を、そのまま正規の「心理的資本」の構成要素と呼ぶわけではありません。
このコラムでは、「HERO」の形成や発揮を促し、新しい行動を生み出す心理的なリソースを、独自の表現として「隠れ心理的資本」と呼んでいます。
「隠れ心理的資本」の独自解釈
「隠れ心理的資本」とは、「HERO」の各要素を陰で支え、困難に向き合う力や新しい行動を引き出す力として各人の内面や人との関係の中にあるその人独自の心理的リソースである。
「HERO」と「隠れ心理的資本」の関係
今回「HERO」と、例としてピックアップした3つの「隠れ心理的資本」の関係は、次のように整理できます。
| 隠れ心理的資本 | 主に支えるHERO | 心の中で起きる変化 | 生まれる行動 |
|---|---|---|---|
| 家族愛(誰かのため) | Hope・Resilience | 守りたい目的が生まれる | 諦めずに踏ん張る |
| ユーモア | Resilience・Optimism | ネガティブな出来事との心理的距離ができる | 気持ちを切り替える |
| 感謝 | Optimism・Hope | 支えられていることに気づく | 恩返しや挑戦へ向かう |
ここで強調したいのは、「隠れ心理的資本」が「HERO」の代替になるのではないという点です。
「隠れ心理的資本」が「HERO」を動かし、「HERO」は行動を生み、その経験がさらに「心理的資本」を育てる。この循環が「心理的資本」のアップデートにつながるのではないでしょうか。
「家族愛」――「誰かのために」が「希望」を具体化する
自分のためより、誰かのための方が強くなれる
人は、自分だけの目標には「もういいか」と思えても、大切な人のためには簡単に諦められないことがあります。
「家族愛(誰かのために)」は、漠然とした「Hope=希望」を「この人を守りたい」「この人と生きたい」という具体的な目的に変えます。
「家族愛」と「HERO」とのつながり
- Hope:守りたい人の存在が、目標と道筋を与える
- Efficacy:家族(大切な人)から必要とされることで「自分には役割がある」と思える
- Resilience:苦境でも踏みとどまる理由になる
- Optimism:「この先にも家族(大切な人)との未来がある」と考えられる
事例:『VIVANT』の乃木憂助
テレビドラマ「VIVANT」の乃木憂助は、単に任務を遂行する強い人間なのではありません。幼い頃に家族を失ったからこそ、家族を取り戻したいという思いを抱えています。
そして、薫やジャミーン、仲間たちとのつながりによって、「自分が生きる理由」は任務だけではなくなっていきます。
つまり、乃木憂助を動かしているのは、表面上の能力や使命感だけではありません。「家族を求める心」「誰かを守りたいという思い」が乃木憂助に「Hope=希望」や「レジリエンス」を供給していると考えられます。

これが、「隠れ心理的資本」、つまり「心理的資本の別班」です。
「ユーモア」――深刻な状況から心を一歩離す
「ユーモア」は「問題を軽く見ること」ではない
「ユーモア」というと、面白いことを言って笑わせる能力だと思われがちです。しかし心理的な働きとして重要なのは、目の前のネガティブな出来事と自分との間に少し距離をつくることです。

失敗した瞬間は、「もう駄目だ」と視野が狭くなります。そこで「これは、あとで話のネタになるかもしれない」と捉え直し「ユーモア」を使うことでネガティブな出来事に飲み込まれにくくなります。
「HERO」とのつながり
- Resilience:感情を切り替え、立ち直る余白をつくる
- Optimism:別の見方や明るい可能性を取り戻す
- Efficacy:困難を扱える大きさに変える
事例:研修や仕事での失敗
研修で話が受講者に伝わらず、会場の反応が鈍かったとします。
「自分には講師の力がない」と考えると、次の行動が止まります。しかしもしその場で「きょうは見事に滑った。次回の教材が一つ増えた」と言えれば、失敗は検討可能な経験に変わります。
「ユーモア」は問題を帳消しにはできません。しかし、問題に押しつぶされない心理的なゆとりをつくります。その余白が、ポジティブな振り返りや再挑戦を可能にします。
「感謝」と「赦し」――過去を未来の力に変える
「感謝」と同じように「隠れ心理的資本」になり得るのが「赦し」です。この二つは似ているようで若干役割が異なります。
- 「感謝」は、受け取ったものに気づく力
- 「赦し」は、過去への固着から自分を解放する力
「感謝」が「HERO」を支える仕組み
自分一人でここまで来たのではないと気づくと、「支えてくれる人がいる」「自分には使える資源がある」と認識できます。
それが「Optimism=楽観性」や「Hope=希望」につながり、「今度は自分が誰かを支えよう」という新しい行動を生みます。
「赦し」がHEROを支える仕組み
「赦し」とは、相手の行為を正当化することでも、無理に忘れることでもありません。過去の出来事に、自分の未来まで支配させないという選択です。
怒りや後悔に使われていた心のエネルギーを取り戻すことで、「レジリエンス」が働き始めます。
事例:退職後のキャリア
会社員時代を振り返ったとき、評価されなかった経験や納得できなかった人間関係だけに焦点を当てれば、過去は重荷になります。
一方で、そこで得た営業経験、人とのつながり、支えてくれた人への感謝に目を向ければ、それらは次の活動の資本になります。
過去を赦し、受け取ったものに感謝することで、経験が「終わった履歴」から「これから使える元手」へ変わるのです。
これは、まさに「心の資本化」と言えます。

「隠れ心理的資本」が新しい行動を生むまで
3つの事例から、共通する流れを取り出します。
ステップ1 「HERO」が弱っている状態
- もう無理だと思う
- 自信を失う
- 立ち直れない
- 悪い未来しか想像できない
ステップ2 「隠れ心理的資本」が働く
- 家族の顔を思い出す
- 失敗を笑える形に言い換える
- 支えてくれた人を思い出す
- 過去への怒りを手放す
ステップ3 「HERO」がアップデートされる
- もう一度やってみようという希望
- 自分にもできるという自信
- 失敗から立ち直る力
- 次はうまくいくかもしれないという楽観性
ステップ4 小さなポジティブ行動が生まれる
- 誰かに相談する
- 別の方法を試す
- もう一度応募する
- 感謝を言葉にする
- 明日の準備を始める
ここでは、「気持ちが前向きになった」で終わらせず、実際の行動までつなげることが重要です。
自分の「隠れ心理的資本」はどこにいる?
今回は「家族愛(誰かのために)」「ユーモア」「感謝」を「隠れ心理的資本」として取り上げましたが、自分に「困難に向き合う力や新しい行動を引き出す力」であればその人独自の「隠れ心理的資本」がいくつでも存在します。フレッド・ルーサンス教授の「次のHERO候補」やこれまでの経験から心に生まれたリソースがあるはずです。
・家族愛(誰かのため )
・ユーモア
・感謝
・赦し
・勇気
・好奇心
・マインドフルネス
・創造性
・本来性
・仲間とのつながり
・過去の成功経験
・助けを求める力
・推し
「隠れ心理的資本」は誰もが持っている「HEROの別班」です。
家族との関係、笑える記憶、感謝できる経験など、すでに日常の中に存在しているものです。自分の「HERO」のアップデートの際に心の中を探索してみると簡単に見つかるのではないでしょうか。
