「ネガティブフィードバック」それは失敗ではなく、研修が“効いている”サインかもしれない
社員研修の事後アンケート。
多くの人事担当者が、真っ先に目を向けるのがネガティブな自由記述です。

「一部の受講者から厳しい意見が出ている」「全然面白くなかった」「わからない」
「正直、失敗だったのではないか…」
特に「心理的資本研修」では、
一般的な「スキル研修」や「知識研修」に比べ、
ややネガティブに見える意見が出やすい傾向があります。
しかし、それは本当に「失敗」なのでしょうか。
結論から言えば、むしろ逆です。
そもそも研修アンケートは「何」を測っているのか
この問題を考えるうえで、欠かせないのがアメリカの教育学者
カーク・パトリックの研修評価モデルです。
カーク・パトリックの4段階評価
-
Reaction(反応)
楽しかったか、分かりやすかったか、役に立ちそうか -
Learning(学習)
何を理解し、どんな気づきがあったか -
Behavior(行動)
現場で行動が変わったか -
Results(成果)
業績や定着率など、組織成果に影響したか
多くの企業で実施されている
研修直後アンケートが測っているのは、
ほぼ例外なくレベル1:Reaction(反応)です。
つまりアンケートは、
「効果」ではなく「感情的な反応」を測っているにすぎません。
なぜ「心理的資本研修」は反応が割れやすいのか
ここからが本題です。
一般的な研修の特徴
-
「正解」がある
-
手法やノウハウを学ぶ
-
「やればうまくいく」が提示される
👉 受講者は安心しやすく、満足度は上がりやすい

「心理的資本研修」の特徴
一方で「心理的資本研修」は、こう問いかけます。
-
その考え方、本当に今も有効ですか?
-
それは「環境のせい」ではなく「捉え方」では?
-
自分の希望・楽観・自己効力感は、どこから来ていますか?
つまり、
これまで当たり前だと思っていた価値観や思考パターンを、
一度“見直し”させられる研修なのです。
ネガティブ意見が出る「心理学的な理由」
① 「認知的不協和」が起きるから
「心理的資本研修」では、
-
「自分はちゃんとやっている」
-
「今のやり方で問題ない」
という自己イメージが揺さぶられます。
その瞬間、人は不快感や抵抗感を覚えます。
これがアンケートでは、
-
「理想論に感じた」
-
「現場を分かっていない」
-
「モヤっとした」
というネガティブな表現として現れます。
しかしこれは、
学習が起きていないサインではなく、起き始めているサインです。

② 「成人学習」は「全員満足」があり得ない
成人は、すでに
-
豊富な経験
-
固定化された価値観
-
自分なりの成功体験
を持っています。
「心理的資本研修」は、
それらを前提にしつつも、あえて問い直します。
そのため、
-
深く刺さる人
-
強く反発する人
が必ず分かれます。
これは失敗ではなく、
「成人学習」としてはごく自然な反応です。
③ アンケート特有の「声の偏り」
さらに、アンケートには構造的な特性があります。
-
不満がある人ほど、強い言葉で書く
-
「まあまあ良かった」人は書かない
-
少数意見が目立ちやすい
結果として、
ネガティブ意見が多い
=
ネガティブな人が多かった
とは必ずしも言えないのです。
「カーク・パトリックモデル」で見ると、何が起きているか
「心理的資本研修」でネガティブ意見が出るのは、
-
レベル1(反応)で違和感が生じ
-
レベル2(学習)への入口に立っている
状態だと解釈できます。
むしろ、
-
レベル1が全員「満足」
-
違和感ゼロ
-
心地よく終わる
という研修の方が、
行動変容(レベル3)に結びつかないリスクは高いのです。
「ネガティブ意見」は研修の欠陥ではなく、特性である
「心理的資本研修」の目的は、
-
気持ちよくして帰すこと
-
納得感だけを提供すること
ではありません。
-
自分の思考癖に気づく
-
一度立ち止まる
-
これからの行動を再設計する
その出発点としての“揺さぶり”が重要です。
ネガティブなアンケートコメントは、
その揺さぶりが確かに届いた証拠でもあります。

人事のみなさまへのメッセージ
研修アンケートのネガティブ意見を見たとき、
ぜひこう問い直してみてください。
-
これは「拒否」か、それとも「違和感」か
-
価値観が動かされた結果ではないか
-
行動変容を見る設計が、その後にあるか
「心理的資本研修」は、
事後アンケートだけで善し悪しを判断すべき研修ではありません。
むしろ、
少し厳しい声が混じっている方が、
「何も残らない安全な研修」ではなかった可能性が高いのです。
おわりに
研修の本当の成果は、
アンケートの外側、
数週間後・数か月後の現場に現れます。
ネガティブ意見を
「失敗の証拠」にするのか、
「変化の兆し」と読むのか。
そこに、人材育成の成熟度が表れるのかもしれません。


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