スマホの刺激は脳に影響するらしい
近年、私たちはインターネットとデジタル技術がもたらす様々な恩恵を享受しています。
しかし、その裏側では、私たちのメンタルに深刻な影響を及ぼす現象も進行していると言われています。
その中でも「脳の腐敗 (brain rot)」という言葉が、若者を取り巻く現代社会の課題を象徴しているのではないでしょうか。
この言葉は元々、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『ウォールデン 森の生活』で文明批判の一環として登場しましたが、現在はインターネットスラングとして、「過剰なエンタメ消費や無目的なデジタルコンテンツ利用により、思考力や集中力が鈍化する現象」を指す言葉として使われています。
この現象は、特にデジタルネイティブ世代である若者において顕著と言われます。
動画やSNS、ゲームがもたらす刺激に脳が慣れすぎると、より深い集中を要する学習や創造活動に対する意欲や能力が低下するという懸念が指摘されています。
こうした「脳の腐敗」から若者を守るために、近年経営学で注目されている「心理的資本」という概念が有効ではないかと考えました。
ここでは、「脳の腐敗」の背景に触れつつ、それを乗り越えるための「心理的資本」の働きについて考えていきます。
「脳の腐敗」と若者たち
現代の若者は、生まれたときからスマートフォンやインターネットが当たり前にある環境で育ちました。
この便利さの中で、彼らは膨大な情報量に触れる一方で、その多くが断片的で短絡的なコンテンツに偏っています。
TikTokの短い動画やSNSのスナップショットは即座に満足感を与えますが、深い考察や忍耐力を必要とする読書や研究の時間を減らし、問題解決に取り組む力を弱める恐れがあります。
「脳の腐敗」という言葉が示唆するのは、このように内省や思索の減少が、個人の成長や社会的成功を妨げるリスクだと言うことではないでしょうか。
特に成長段階にある若者にとって、この影響は長期的なものである可能性が高く、放置すると学業成績や将来のキャリア形成にも悪影響を及ぼしかねません。
「心理的資本」とは何か
こうした状況を改善する鍵になるのではないかと考えて紹介するのが、近年経営学でも取り上げられるようになった「心理的資本 (Psychological Capital)」の概念です。
「心理的資本」とは、以下の4つの要素(リソース)で構成される個人の内面的な資産を指します。
- Hope(希望): 目標を設定し、それを達成するための具体的な道筋を描ける能力。
- Efficacy(効力感と自信): 困難な状況でも自分の能力を信じ、成功できると確信する力。
- Resilience(乗り越える力): 失敗や困難から立ち直る力。
- Optimism(現実的な楽観力): 将来に対して前向きに考え、積極的に行動する姿勢。
4つのリソースの頭文字をとって「HERO」と呼ばれます。
「心理的資本」は、学業や仕事でのパフォーマンスを高めるだけでなく、ストレスや不安への対処能力を強化することでも知られています。
特に現代の若者が遭遇しているであろう「脳の腐敗」やそれに伴うモチベーション低下に対して、「心理的資本」が強力な防波堤となり得る可能性があります。
「心理的資本」が「脳の腐敗」を防ぐ理由
「心理的資本」は、単なる理論ではなく、実践的な力を持っています。以下に、その具体的な作用を挙げます。
「Hope」が目標を作り、方向性を与える
断片的な情報や短期的な快楽に流される若者は、長期的な目標を見失いがちです。
しかし、「Hope」があれば、自分の未来に向けて具体的なビジョンを持つことができ、目的意識を持った行動が可能になります。
「Efficacy」が挑戦を促す
「Efficacy」が高い若者は、自分の能力を信じ、挑戦を恐れません。
これにより、単なる受動的なエンタメ消費ではなく、積極的に新しい知識やスキルを吸収する自律的行動につながります。
「Resilience」が挫折からの立ち直りを支える
「脳の腐敗」による精神的な倦怠感や低迷に陥ったとしても、「Resilience」があれば、そこから立ち直り、健全な思考習慣を取り戻すことができます。
「Optimism」が未来への意欲を育む
悲観的な思考や「どうせ無駄だ」という諦めは、「脳の腐敗」を加速させます。
一方で「Optimism」を持つ若者は、自分の可能性を信じて行動し続けることができるのです。
「心理的資本」を育むためにできること
では、この「心理的資本」を育むためには、具体的にどのようなアプローチが有効でしょうか。
- 習慣の見直し
デジタルデバイスに触れる時間を制限し、読書や創造的な趣味に時間を割くことが、内省力や集中力の向上に繋がります。 - 小さな成功体験を積む
若者が自信を持つためには、小さな成功体験が重要です。目標を細分化し、達成感を得られる仕組みを作ることが大切です。 - 支援的な環境を整える
家族や学校、職場などでの心理的安全性が確保されていれば、若者は困難に直面しても回復力を発揮しやすくなります。 - 自己効力感を高める教育
「Efficacy」が心理的資本の基盤となるため、教育の中で「できないこと」ではなく「できること」にフォーカスするアプローチが有効です。
未来を切り拓くために
「脳の腐敗」という刺激的な言葉には、現代の若者が情報過多とデジタル依存の中で、多くのメンタル課題に直面していることへの警鐘が含まれています。
しかし、「心理的資本」を意識的に育むことで、こうした課題を乗り越える力を身につけることができるはずです。
「Hope」「Efficacy」「Resilience」「Optimism」――「HERO」を備えた若者は、単なる受動的な生き方ではなく、未来を切り拓く自律的な生き方を選ぶようになるでしょう。
さらに進化するデジタル時代においても、自分らしい生き方を追求し続ける力を持つ若者たちが増えることを願っています。
(ホリシン)
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