キャリアで悩んだら自分の「心理的資本」を考える
長いキャリアのどこかで、「やる気が出ない」「仕事がつまらない」と感じる時期が必ずあります。
私自身は、大手広告会社で35年間働き、コピーライターを10年、営業職を25年経験し、最後は営業局長として一つのキャリアを終えました。
しかし、その道のりは順風満帆ではありませんでした。自分のクリエイティビティに自信をなくし、悩み、異動を希望した時期もありました。
またその後、IT会社で6年間営業担当顧問を務める中でも、多くの人がキャリア形成や仕事のモチベーションについて悩んでいる姿を見てきました。
そして、その解決の鍵として見えてきたのが、「心理的資本」という考え方です。
「心理的資本」は、仕事や人生に前向きなエネルギーを生み出す「4つのエンジン」から構成されています。
ここでは、この4つのエンジンを使って、あなたが仕事のやる気を取り戻し、自分らしいキャリアを築く方法をお伝えします。
「心理的資本」とは? 〜4つの力で心を育てる〜
「心理的資本」とは、アメリカの経営学者フレッド・ルーサンスが提唱した概念で、「こころの資本」(2020年/中央経済社)という本で日本に紹介されました。
「心理的資本」は、以下の4つの要素(リソース)で構成されています。
- Hope(希望、目標):目標に向かって進み続ける力
- Efficacy(効力感、自信):自分ならできるという自信
- Resilience(レジリエンス):逆境に立ち向かい、立ち直る力
- Optimism(現実的な楽観力):物事を前向きに捉える思考
この4つのリソースの頭文字をとって「HERO」と呼ばれます。
「心理的資本」は、ビジネスパフォーマンスや仕事満足度を向上させる「人材マネジメント」に有効な概念であると同時に、「キャリアに自信が持てない」「失敗をしたくない」と考える若い世代のメンタルをポジティブにリセットする効果も期待されています。
一つ一つ見ていきましょう。
「Hope(希望、目標)」:前向きな目標設定で道筋を描く
「Hope」は、「未来に向けて目標を設定し、その達成に向けて努力し続ける力」です。仕事にやる気を感じない時は、目標が曖昧になっていることが多いものです。
「Hope」を持つための具体策
- 短期・中期・長期の目標を設定する:短期的なタスクから始めて、1年後、5年後の自分をイメージする。
- 自分の「やりたいこと」を明確にする:仕事の中で少しでも自分が楽しめる部分を見つける。
私は営業で同じクライアントを25年間担当しました。
仕事のやり方がマンネリになったり、部下が私の言動を気にしすぎて自律的に動かなくなるというマイナス面も生まれました。
一人のクライアントが10年間海外赴任をして戻ってきたらまだ私が担当だったと驚いて「お宅の会社、進歩がないなあ」と皮肉を言われたこともありました。
こんな向かい風も感じながら、私は常に「このクライアントの期待を超える」という目標を持ち続けました。
この確固たる目標が、日々の行動やモチベーションを支えてくれたのです。
「Hope」を持つことで、長期間にわたる仕事も充実感を得られるようになります
「Efficacy(自己効力感)」:「自分ならできる」という自信を取り戻す
「Efficacy」とは、「自分ならこの仕事をやり遂げられる」という自信のことです。小さな成功体験を積み重ねることで、「Efficacy」は確実に育っていきます。
「Efficacy」を高めるポイント
- 小さな目標設定:チームの大きな目標に圧倒されず、今日自分が達成できる小さなタスクに集中する。
- 過去の成功体験を振り返る:自分が乗り越えた困難や、褒められた仕事を思い出してみる。
私がコピーライターから営業職に異動したとき、最初は全く自信がありませんでした。
しかし、「1人のクライアントにしっかり向き合う」という小さな目標を掲げ、目の前の仕事に全力で取り組んだ結果、25年間同じクライアントを担当し続けることになりました。
小さな成功が積み重なり、やがて「自分ならできる」という「Efficacy」へとつながったのです。
「Resilience」:逆境から立ち直る力
「Resilience(レジリエンス)」とは、逆境や困難に直面したときに、心を折らずに乗り越え立ち直る力のことです。
長いキャリアの中では、必ず挫折や困難が訪れます。しかし、その経験があなたを強く成長させるのです。
Resilienceを高める方法
- 失敗を学びに変える:「なぜうまくいかなかったのか?次にどうすればいいのか?」を考える。
- 支えてくれる人を大切にする:周囲の信頼関係が、立ち直る力を支えてくれます。
私の経験でも、クライアントの要求に応えられず叱責されたことが何度もありました。
しかし、「失敗を学びに変える姿勢」と「信頼関係」があったからこそ、長年にわたって営業職を続けることができました。
「Optimism(現実的な楽観性)」:困難な状況でも前向きに考える力
「Optimism」は、「困難な状況でも必ずうまくいくと信じて行動できる力」です。
「Optimism」があれば、逆境やストレスを跳ね返し、ポジティブな行動を取ることができます。
「Optimism(現実的な楽観性)」を育むポイント
- ネガティブな思考を書き出し、ポジティブに変換する:例えば「失敗するかも」→「チャレンジすれば成長できる」と置き換える。「ユーモア」を発揮する。
- 周囲のサポートを頼る:人と話すことで視野が広がり、解決策が見えてくることがあります。
私自身、営業時代には大きなトラブルに直面したことが何度もありました。
ある日クライアントが主催するゴルフイベント会場にいた時、偶然上空を競合会社の気球船が飛んだことがありました。
一瞬スタッフも青ざめて私の顔を見ました。
その時クライアントの一人が「あの気球船を打ち落とせ!」と本気で怒ったのです。
その場で私は「ピッチングのフルショットですね!」とユーモアで返して場をやわらげました。
「信頼関係」に基づく楽観的な視点を持つことで、状況を好転させる次の一手を冷静に考えられるのです。
「心理的資本」の「4つのエンジン」でやる気を取り戻す
仕事のモチベーションを取り戻し、自分らしいキャリアを築くためには、「心理的資本」の「4つのエンジン」を活用しメンタルをリセットすることが有効です。
- Hope(希望と目標):目標を描き、達成に向けて努力する
- Efficacy(効力感と自信):「自分ならできる」という自信を持つ
- Resilience(乗り越える精神力):逆境から立ち直る回復力を育む
- Optimism(現実的な楽観性):困難な状況でも前向きに考える
これらの「4つのエンジン」を常に意識し、少しずつアップデートしていくことで、あなたのキャリアは新しい方向に向かうかもしれません。
おわりに
私は「PsyCap Master(心理的資本開発士)」として、多くの若い人材の成長に関わってきました。
「心理的資本」は誰もが持っている「心の資産」です。
しかし意識しなければ「宝の持ち腐れ」になってしまいます。
今後のキャリアに悩んでいる方は、今日からこの「4つのエンジン」を意識して、前向きな一歩を踏み出してみてください。
あなたの仕事と人生に、もう一度「やる気」と「楽しさ」を取り戻せるはずです。
(ホリシン)
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