「人的資本」「社会関係資本」だけでは成果は生まれない!VUCA時代のキーワードは「心理的資本」だ!
人材マネジメントやキャリア形成において、これまで注目されてきたのは「人的資本」と「社会関係資本」です。
「人的資本(Human Capital)」とは、スキルや知識、資格などの個人が持つ能力やリソースのことを指し、例えば語学力や専門的な技術が該当します。
一方、「社会関係資本(Social Capital)」とは、信頼を基盤とする人的ネットワークや対人関係の強みのことです。
これら2つの資本は、個人のキャリア形成における「スペック」であり、人材マネジメントの世界でも重要視されてきました。
しかし実はこれらだけでは本当の成果は生まれないというのが近年の人材マネジメントのトレンドになりつつあります。
その2つの資本を活用してポジティブな行動につなげる「心のエンジン」としての「心理的資本(Psychological Capital)」の存在が注目を集めるようになったからです。
「心理的資本」は「4つの力」が支える「心のエンジン」
「心理的資本」(Psychological Capital)は、ポジティブ心理学と経営学の分野で発展した概念で、個人や組織のパフォーマンスとウェルビーイングに対して影響を与える「4つの力」を指します。
この理論は、2006年にネブラスカ大学のフレッド・ルーサンス教授と彼の同僚たちによって提唱されました。
日本では2020年にこの本が開本浩矢氏(大阪大学経済学部研究科教授)らによって翻訳され「こころの資本」として出版されました。
「心理的資本」とは、「Hope(希望、目標)」「Efficacy(効力感と自信)」「Resilience(乗り越える力)」「Optimism(現実的な楽観性)」の4つの力で構成される「ポジティブな行動を起こすための心理的な強さ」を指します。
4つの力の頭文字をとって「HERO」と呼ばれます。
この「HERO」が働くことで、「人的資本」や「社会関係資本」が効果的に活用され、仕事の成果やキャリアの中での自己成長につながります。それぞれを簡単に解説します。
- 「Hope(希望、目標)」
明確な目標(Will)を持ち、それを達成するための複数のルート(Way)を考え、前に進み続ける力です。「Hope」は未来への方向性を与えます。 - 「Efficacy(効力感と自信)」
自分の能力を信じ、目の前の課題に立ち向かう力です。「できる」という自信は、挑戦を後押しします。 - 「Resilience(乗り越える力)」
困難や失敗から立ち直る力。キャリアの中で避けられない失敗や逆境を乗り越えるために不可欠な力です。 - 「Optimism(現実的な楽観性)」
未来に対して前向きに考え、行動できる力です。困難を乗り越える心のエネルギーとなります。
「心理的資本」が注目される背景
ではいまの社会情勢やビジネス環境において、なぜ「心理的資本」が重要視されるようになったのでしょうか。
VUCA時代の到来:予測不可能な変化への対応力
現代はVUCA(Volatility=変動性, Uncertainty=不確実性, Complexity=複雑性, Ambiguity=曖昧性)と呼ばれる時代です。
変化が激しく、未来の予測が困難な環境においてビジネスで成果をあげるためには従来の固定的なスキルや知識(人的資本)だけでは十分ではなくなってきたのではないでしょうか。
VUCA時代に必要とされるのは、変化に柔軟に対応し、失敗を乗り越えながら前進するための心理的な力、すなわち「心理的資本」です。
4つの力「HERO」が、予測不可能な環境で個人や組織が適応し、成長するための「心のインフラ」となります。
キャリアの自己責任化:個人の自己管理力が求められる時代
終身雇用や年功序列が崩れつつある現代では、キャリア形成の責任が個人に移行しています。これにより、次のような問題が発生しています。
- 将来への不安からモチベーションが低下する。
- 自己啓発やスキルアップを続けられない。
- 人間関係の構築が難しくなる。
こうした課題に対応するには、「心理的資本」が大きな役割を果たします:
- 「Optimism」が、将来の不確実性に対するポジティブな視点を生む
- 「Efficacy」が、自分でキャリアを切り開く自信を醸成する
「心理的資本」を生かすことでキャリアを飛躍させる
私が25年間の営業経験の中で特に重要視したスキルは「調整力」と「交渉力」でした。
クライアントの様々な要求に対し、社内外の関係者と友好的に話し合い、落としどころを見つける能力には自信がありました。
いわば私の「人的資本」のコアであり、それを「社会関係資本」(人脈)で支えていたように思います。
しかし、それも毎日頻繁に起こるトラブルで夜も寝られない状態になると、心理的な活力が衰え安易な解決策に走るようになってしまったのです。
そうなるとクライアントだけでなく、チームメンバーからの信頼も薄れリーダーとしての存在感が希薄になるという悪循環に陥りました。
もし当時の私が自分の「心理的資本」に気づき、もっと多角的な「Hope(希望、目標)」を持ち、長期的な成長を見据えて道筋を考え、チームメンバーを信頼し障害を乗り越える努力を続けていたらどうだったでしょうか?
あるいは、「Efficacy(効力感、自信)」を持ち、「いまの自分ならできる」と信じて壁に挑戦していたらどうなっていたでしょう?
「心理的資本」を活用することで、「人的資本」や「社会関係資本」の「宝の持ち腐れ」を防ぐことができます。具体的には以下の方法があります。
- 「Hope」を高める:自分に合ったゴールを設定し、実現可能なプランを作る。
- 「Efficacy」を鍛える:小さな成功体験を積み重ね、自信を深める。
- 「Resilience」を強化する:失敗を経験として捉え、次に活かす習慣を持つ。
- 「Optimism」を育てる:ポジティブな視点で問題を捉え直し、次の一手を考える。
「心理的資本」の推進力で「人的資本」と「社会関係資本」を積極的に生かす
このように「人的資本」と「社会関係資本」は、実は「心理的資本」という「心のエンジン」がなければその力を十分に発揮することができません。
特にVUCA時代と呼ばれる変化の激しい時代では、この「心のエンジン」がなければキャリアの迷路に迷い込んでしまいます。
まとめ:「人的資本」と「社会関係資本」の「宝の持ち腐れ」を防ぐための「心理的資本」
「心理的資本開発指導士(PsyCap Master)」となったいまなら、自信をもって自分にこう言えます。
どんなに素晴らしい「人的資本」や「社会関係資本」を持っていても、それだけでは成果や成功につながりません。
それらを生かし活用し成果につなげるためには、ポジティブな行動を起こすための「心のエンジン」である「心理的資本」が欠かせないのです。
私は自分の営業時代には意識できなかった「Hope」「Efficacy」「Resilience」「Optimism」という4つの力がどれほど重要であるか、「心理的資本開発指導士(PsyCap Master)」となったいまならよくわかります。
これからキャリアを積んで社会で活躍しようとするみなさんには、「人的資本」と「社会関係資本」を磨きながら、さらに自分の「心理的資本」を育てアップデートすることをおすすめします。
(ホリシン)
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