「心理的資本開発士(PsyCap Master)」のホリシンです。
今回はキャリア形成や人材マネジメントでよく指標とされる「人的資本」と「心理的資本」の間柄についてです。
「人的資本」の進化は「量」(マンパワー)から「質」(スキル)へ、さらに「人間力」へ
1961年、シカゴ大学の経済学者シュルツ(Theodore W. Schultz)が、アメリカ経済学会の会長講演で「人的資本(Human Capital)」という概念を提唱しました。
それまで労働力は単なる「量」として捉えられていましたが、シュルツは教育やスキルの向上によって「質」を高めることができると説きました。
この考えは、アメリカの経営学者ロバート・L・カッツによる「カッツモデル」と融合され、「人的資本」を「テクニカルスキル」→「ヒューマンスキル」→「コンセプチュアルスキル」という3つのレベルに分けて説明する枠組みが生まれたと言われています。
「人的資本」の3ステップとは?
この「カッツモデル」は人材マネジメントの分野では管理職の能力開発やリーダーシップ研究の基礎として広く活用されています。
特に、現場担当者から管理職、経営者へとキャリアが進むにつれて、「テクニカルスキル」の重要性が相対的に低下し「コンセプチュアルスキル」がより求められる という点が特徴です。
- テクニカルスキル(Technical Skill)
- 専門知識や実務スキル
- 例:プログラミング、会計、マーケティング分析など
- ヒューマンスキル(Human Skill)
- 対人関係能力やコミュニケーション力
- 例:チームワーク、リーダーシップ、交渉力
- コンセプチュアルスキル(Conceptual Skill)
- 抽象的思考力や戦略的視点
- 例:ビジョン策定、問題解決能力、イノベーション
このように「人的資本」はスキルの積み重ねによって進化し、キャリアを築くうえで不可欠な要素となります。
「人的資本」の磨き方とは?
ではこの「人的資本」をアップデートするにはどうしたらいいでしょうか。
「人的資本」を成長させるためには、以下のような学習方法が有効とされています。
経験学習(Experiential Learning)
デービッド・コルブ(David A. Kolb) が提唱した 「経験学習モデル(Experiential Learning Model: ELM)」 に基づいています。
コルブの経験学習モデルでは、学習は以下の4つのプロセスを循環するとされています。
- 具体的経験(Concrete Experience) 実際に体験する
- 省察的観察(Reflective Observation) 体験を振り返る
- 抽象的概念化(Abstract Conceptualization) 理論や法則を導き出す
- 能動的実験(Active Experimentation) 新しい状況で試してみる
このサイクルを繰り返すことで、実践を通じて学習が深まるとされています。
<例>プロジェクトリーダーを経験することでマネジメントスキルを習得する
越境学習(Boundary Spanning Learning)
「越境学習」の概念は、エティエンヌ・ウェンガー(Etienne Wenger) の 「状況的学習論(Situated Learning Theory)」 や「コミュニティ・オブ・プラクティス(CoP)」の考え方に影響を受けています。
異なる環境(業界・職種・組織)に身を置くことで、新しい視点やスキルを獲得する学習 の重要性を提唱しています。
<例>異業種交流や副業、ボランティア活動など
独学(Self-Directed Learning)
独学に関する理論は複数ありますが、代表的なものとして マルコム・ノールズ(Malcolm Knowles) の 「自己主導型学習(Self-Directed Learning)」 が挙げられます。
ノールズは成人教育(アンドラゴジー)の研究者で、成人は自律的に学習を進める能力を持ち、以下のような要素が独学に重要であると述べています。
- 学習目標を自ら設定する
- 学習プロセスを管理する
- 学習の成果を評価する
また、近年では ピーター・センゲ(Peter Senge) の「学習する組織(The Fifth Discipline)」の考え方とも関連し、組織に依存せずに個人が主体的に学び続けることの重要性が指摘されています。
- 書籍やオンライン学習を活用して自ら知識を深める方法
- 例:資格取得やプログラミングの自己学習など
こうした学習を積み重ねることで「人的資本」の価値は高めることが可能です。
しかしさらに「オーセンティックリーダーシップ」に代表されるように、現代は単にスキルを磨くだけではなくさらに「人間力」が問われる時代です。
そこで次に重要になるのが「社会関係資本(Social Capital)」と「心理的資本(Psychological Capital)」です。
「人的資本」を支える「社会関係資本」とは?
「社会関係資本(Social Capital)」とは、「人とのつながり」がもたらす資本のことです。
「人的資本」がスキルの蓄積であるのに対し、「社会関係資本」は「どれだけ多様な人と信頼関係を築き、それを活かせるか」を示します。
「社会関係資本」の要素
- 結束型資本(Bonding Social Capital)
- 近しい関係(家族、親しい友人、同僚)から得られる信頼や支援
- 橋渡し型資本(Bridging Social Capital)
- 異なるコミュニティとのつながり(異業種交流、SNSネットワーク)から得られる新しい知見や機会
「人的資本」を活用するためには、この「社会関係資本」が不可欠です。
しかし、特にビジネスリーダーにとってはつながりを築くだけでは十分ではなく、さらに「心理的資本」がそれを支える鍵になります。
「心理的資本」がリーダーの「人間力」を作る
「心理的資本(Psychological Capital)」は、自分の可能性を信じ、困難を乗り越え、前向きに成長する力を指します。
経営学者フレッド・ルーサンス(Fred Luthans)によって提唱された概念で、以下の4つの要素(リソース)から構成されています。
「心理的資本」の4要素(HEROモデル)
- 「Hope」(希望、目標)
- 目標に向かって複数の方法を考え、前進し続ける力
- 「Efficacy」(効力感と自信)
- 「自分ならできる」という自信
- 「Resilience」(乗り越える精神力)
- 困難に直面しても立ち直る力
- 「Optimism」(現実的な楽観性)
- 未来を前向きに捉え、挑戦し続ける姿勢
「心理的資本」が「人的資本」と「社会関係資本」を「人間力」に変える理由
「人的資本」と「社会関係資本」を高めるだけでは「スキルのある人」「人脈のある人」にはなれますが「人間力のあるリーダー」にはなれません。
例えば、技術や知識が豊富でも、挑戦を恐れる(自己効力感が低い)、失敗を過度に気にする(レジリエンスが低い)と、強いリーダーシップを発揮できません。
またどんなに顔が広くても信頼されてなければ部下はついてきません。
「心理的資本」を育むことで、「人的資本」と「社会関係資本」を最大限に活かし、「人間力」にあふれたリーダー像を実現できるのです。
「人的資本」 × 「社会関係資本」 × 「心理的資本」=真の人間力(オーセンティシティ)
いま多くの企業で求められているのが「オーセンティックリーダーシップ(Authentic Leadership)」です。
「オーセンティックリーダーシップ」とは「本物であること」や「誠実さ」を基盤としたリーダーシップのスタイルで、リーダー自身が自分の価値観や信念に忠実であると同時に、他者に対して透明性を持ち、信頼関係を築くことを重視します。
つまりこの「オーセンティックリーダーシップ」には、特に個人の倫理観や人格、内省力といった「人間力」が必要とされているのです。
「スキル」だけでなく「人間力」へ
「人的資本」の概念は、元々は経済学的な視点から「労働者の価値向上」を目的としていました。
しかし、現代ではそれを「人間力」として広げることが求められています。
「人的資本」を磨くだけでなく「社会関係資本」で活かし「心理的資本」で「乗り越え、挑戦し続ける力」を持つことで、キャリアだけでなく人生全体を豊かにすることができます。
「3つの資本」で「オーセンティックリーダー」を目指す
- 「人的資本」を高めるために、新しい学習に挑戦する(経験学習・越境学習・独学)
- 「社会関係資本」を意識し、多様な人と関係を築く(異業種交流・オンラインコミュニティ活用)
- 「心理的資本」を強化し、前向きに挑戦し続ける(自己効力感やレジリエンスを意識した習慣づくり)
こうした視点を持つことで、単なる「キャリアアップ」ではなく、「人生そのものを豊かにする」成長が可能になります。
だからこそあなたの「人的資本」を「人間力」へと進化させるには日々の「心理的資本」のアップデートが必要になるのです。
(ホリシン)
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